2013年6月13日木曜日

カフカ風散文 その1

 僕は歩き続ける。僕を残していくのを忘れず。何か目的地があるわけでは無く、そこにたどり着くべき場所があるわけでは無く、さらにはどこかから始めたというのでも無い。あると確実に言うことが出来るのは、歩いている僕と、残った僕だ。もう少し正確に云うべきだろう、この大地を確実に一歩一歩蹴っているという決定的な感覚を持っているのが他でも無い僕であるという確信があるし、そして僕が離れていき着実に小さくなっていくということを立ち尽くしながら考えている瞬間がある。何千という夜の、また次の夜が過ぎ、僕はもう蚤の目に入った埃よりも小さくなってしまっても、なお、まだ小さくなっていく。とつぜん、めまいに襲われて僕は地面に膝をついた。歩き疲れたからか、じっとしていることに疲れたからか、もう僕には分からない。それは、向こうにいる、小さくなってしまった僕がどうなったのか分からないのと同じ事だ。ただ、分かっているのは、実は、大地は天動説を口にする人々によって円盤のように平らかであり、どこまで行っても終わりなどないということだ。