2014年1月28日火曜日

世界の外にあるものに敬意を払う。


 光文社新訳文庫『論理哲学論考』 ヴィトゲンシュタイン 丘沢静也・訳 

 今回、久しぶりに論考を読み通した。 
 丘沢訳は正直自分には合わない、と思うことが多かった。たとえば、同じ文庫から出ているカフカの『訴訟』などは、わかりやすい訳という信念と、ユーモアあふれるカフカという自身の考える像からどうしてもカフカの文章をゆがめているように思われて好きになれなかった(読みやすさでいうならこの訳かもしれないので、初めて読む人にはこれを勧めたいけれども)。今回も「言語たち」などといった抽象名詞に「たち」をつけるなどの書き方は、合わない。 

 だが、全体を通して読んでみると、岩波文庫から出ている野矢茂樹の訳よりも自分の思っているヴィトゲンシュタイン像に近いと思った。それはやはり、ドイツ文学者が訳したからというのもあると思う。ヴィトゲンシュタインはオーストリア人であり、イギリスの「ウィトゲンシュタイン」ではけっしてないのだと感じることができる。 

 ヴィトゲンシュタインの著作を読むとき、自分が思ったのは、世界の簡潔性ではなく、世界の外への「敬意」、語り得ぬものに対するその「語ることの出来なさ」を尊重することの重要性だった。(いま直感的に思ったのは、村上春樹の小説は一連としてこのことを意識しているということ) 

 カフカが何かしら「世界の中でもがくこと」を示したとするなら、ヴィトゲンシュタインが示したものもまたこの世界の中でもがくことのように思う。