まどろむ
時計の針が部屋の中でひどく響くのだった。そのためにうまく寝られず、目を閉じても、周囲への感覚が鈍くならないで気疲れして目を開けると、霞む視界に浮かぶ文字盤を秒針ばかりが回っている。まだ五分も経っていない。夜の長さ、特に目が覚めているときの夜の長さは有限であるからこそ、永遠に続くように感じられた。床についたのは一時を過ぎていたはずだから、もう三時間もすれば空が白み、窓から透ける光で、夜を乗り越えるのだと鼻辺りまで身を包んだ布団のほこり臭さをかぎながら、目を閉じてはいられなくなるから、早く眠りにつかなければならない。それなのに眠りはいつまでも向こうから来る気配がなかった。こういうときについ枕もとにある本を手に取り、頭を疲れさせようとするけれども、大抵は失敗に終わり、余計に冴えてしまう。小説に出てくるひげ剃り用かみそりや、論文の途中に出てくる何を表わすのか掴めない数式が頭をぐるぐるまわるからだ。時計の秒針よりも速く、速く。頭の中で回る心像のひとつひとつはその時の自分にとってもっとも意味の無いものであり、もっとも遠いものであったはずなのに、夜という時間と寝るための場所によって、それらは近くなる。
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