2012年8月7日火曜日

記憶の音楽棚



 吉田健一の『書架記』という本がある。今でも中公文庫で買える。
 
 内容は戦争で灼けてしまった青春時代の本を思い返すという体裁の書評で、執筆時に筆者がその本を持っていないというところが面白いと思った。もちろん別の本で読んだのかもしれないがほとんどは記憶で書いているところに記憶という洗練/美化/脚色を被る書物の唯一性がそこにある。

同じ事をしても面白いとは思わないので、自分は音楽でそういうものが無いかを思い返してみる。


・タン・ドゥン作曲 オペラ「Tea ~茶経異聞~」

 中国の現代作曲家である、タン・ドゥンのつくったオペラ。グリーン・レクイエムという日本でも流行った映画の音楽も作っているから、もしかしたら彼の音楽は聴いたことがあるかもしれない。
 自分はこの音楽をNHKの芸術番組で観た。ビデオに録ったが今ではビデオを観ることが出来ず、カセットも多分かなり痛んでいることだろう。

 内容は茶の秘伝「茶経」を巡る日本の皇子と唐の皇女の悲恋。

 物語は簡素だが、台本は難解。禅的な思想が繰り広げられる。

 音楽が良い。アジアの声唱法がふんだんに使われているのに、西洋音楽とぶつからずに調和している。それがタン・ドゥンのききどころでもある。

 もう一つの特徴は、舞台効果と音楽の融合。舞台上に三人の打楽器奏者がいて彼らの演奏=舞台演出となっている。
 とくに印象的なのは、天井から垂れ下がる紙。それを彼女達(打楽器奏者は全員女性。衣装も着ており、天女のように舞台を「舞う」)は撥で叩いたり、或いはゆすったりして音を奏でる。
 場面ごとに中心となる楽器が場の名前となっている。「水」「紙」「陶器」など考えると、こうしたものは「茶」に結びついているとも考えられる。

 たぶん、私にとってのオリエンタリズムの憧憬はここから始まっているような気がする。

0 件のコメント:

コメントを投稿