2013年4月8日月曜日

役目が終わる。

 あらゆることには始まりがあり、終わりがある。男の役目もそろそろ終わりを迎える。このことを男はうすぼんやりとだが気付いており、だからといって何もするわけではないが、それでも終わるのはいつなのだろうかと考えている。そもそも彼にとって、その役目を背負うことになったのは本当に偶然のことであった。それが彼でなければならないとは、誰も思っていなかったに違いない、当の彼自身さえそう思っていた。しかし、彼はその役目を引き受けた以上、役目を果たすことに尽くした。別に特別なことは何もなく、彼は彼の以前の生活をなんら変える必要はなかった。それでもその中に役目があり、役目を負っているという考えが彼の生活には満ちたのだった。そのせいで彼は最初、自分の生活がまるきり変わってしまうのではないかと恐れた。それは杞憂に終わった。何も変わらずに、以前の生活を続けながら彼はその役目を担った。ある時、男は友人に向かって、俺は今やらなきゃいけないことを任されているんだと云ったことがある。友人は無関心そうに、ただ友人としての優しさを以て聞いた。ふうん、それはどんなことなんだい。男は何も答えることが出来なかった。さて、ある日、彼はいつ終わるともしれない自分の役目が一体どんなふうに終わるのかを想像していた。そしてこの役目を任された時のことを思い出そうとした。しかし、それがいつのことだったか、そもそもどのようにして任されたのか、思い出せなかった。男は友人に、僕は君に、役目を任されたことを云ったと思うのだけど、あれはいつだったっけ、と聞いた。しかし友人から返ってきた応えは、そんなことを云ったことあったか、だった。それを聞いた時には、男の役目はすでに終わっていた。だが、男はふたたび役目がいつ終わるのかを考えていた。

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