2013年4月8日月曜日

ロベルト・ヴァルザーの詩 「傍らに」「怯え」「いつものやうに」


 傍らに 

 ぼくはひと歩きする。 
 それほどでもない距離を遠回りして、 
 家まで。そのとき響きはなく、 
 言葉もなくぼくは傍らにいる。 


 怯え 

 ぼくはとても長い間待つてゐた、甘い、 
 調べと挨拶、ひとつの響きだけを。 
 今ぼくは怯えてゐる。調べでも響きでもなく、 
 霧だけが濛々と立ちこめ迫つてくる。 
 ひつそりと暗やみにまぎれ歌つたもの、 
 ぼくの心を和らげてほしい、悲しみよ、今では陰鬱な歩み。 


 いつものやうに 

 ランプはまだそこにあるし、 
 机もまだそこにある、 
 ぼくはまだ部屋にゐて、 
 ぼくのあこがれは、ああ、 
 まだいつものやうに溜息をついてゐる。 

 臆病、君はまだそこにゐる? 
 それから、嘘、君も? 
 ぼくはあいまいな肯定の返事を聞く。 
 不幸がまだそこにゐる。 
 そしてぼくは、まだ部屋にゐる、 
 いつものやうに。

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