ロベルト・ヴァルザーの詩 「傍らに」「怯え」「いつものやうに」
傍らに ぼくはひと歩きする。 それほどでもない距離を遠回りして、 家まで。そのとき響きはなく、 言葉もなくぼくは傍らにいる。 怯え ぼくはとても長い間待つてゐた、甘い、 調べと挨拶、ひとつの響きだけを。 今ぼくは怯えてゐる。調べでも響きでもなく、 霧だけが濛々と立ちこめ迫つてくる。 ひつそりと暗やみにまぎれ歌つたもの、 ぼくの心を和らげてほしい、悲しみよ、今では陰鬱な歩み。 いつものやうに ランプはまだそこにあるし、 机もまだそこにある、 ぼくはまだ部屋にゐて、 ぼくのあこがれは、ああ、 まだいつものやうに溜息をついてゐる。 臆病、君はまだそこにゐる? それから、嘘、君も? ぼくはあいまいな肯定の返事を聞く。 不幸がまだそこにゐる。 そしてぼくは、まだ部屋にゐる、 いつものやうに。
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