2011年9月17日土曜日

ぼくのプロポ 005

 事故に遭ってから、ぼくの何かが壊れています。自転車乗って、車にぶつかり、ぽんと空を舞ったらしい、そんな勢いでぼくの何かは壊れたそうです。真っ白ななか、ぼくはまえのぼくを見た気がします、それがまえのぼくだとそのときは知らなかったけれど。 
 体を揺すられて、ぼくは戻ってきた、ようです。本当に戻ってきたのでしょうか、ただ、来た、なのかもしれません。ぷっつりと過去から断たれてしまって、そこにぼくがいたのです。ぼくは誰なんだ、と思いました。ここはどこなんだと思いました。人間であるのは分かっているけれど、なんで怪我してるんだと思いました。自分が誰かと問われ、証明
しようと思ったのに、ぼくは自分を証明できなかった。免許証ひとつ取り出せなくて、そこで動けなかった。救急車に乗って、やっと怪我してると分かって、病院にはこばれて、それが大きいのだと分かって、病室に入って、ぼくは、生きてると、分かった。 

 あ、ぼくの何かが壊れているなあ、と感じました。 

 それは記憶というものだったりしたそうで、人の名前が出てこなくなったりします。名前を確認しても、その人と何をしたりしたか、忘れたりしてます。どんな人だったかがぼんやりしてます。名前を確認して、でもどうしても他人だと思ったりします。向こうも他人と思っているみたいです、安心しました。 

 それは性格というもので、ぼくは怒りっぽくなったそうです、いや、いま思い出せる自分を考えれば、我慢していた、のであって、怒りっぽくなったのではなく、我慢しなくなっただけかもしれません。もともと卑屈だったらしい自分がより卑屈になっているようにも感じます。黙ると言うことを覚えたみたいです。 

 それは動きと呼ばれるものかもしれないから、ぼくは手をぎゅっと握ってみようとするのだけれど、怪我をして皮膚がまた生まれている所がぴりっとするから、ぼくは途端に力を抜いてしまう。強く握れないなあ、ペットボトルを開けるのに上手く力が入らないなあ、と思ったりします。今まで出来たことが上手くできないのは困るので、それは練習をしなければなりません。出来るはずのものを練習するなんて、いや、本当は出来ていなかったのかも知れません。 

 ぼくのぼくというものが壊れているなあ、と感じています。

0 件のコメント:

コメントを投稿